あなたがすきなものだから


 たとえば、小さい頃からずっと伸ばし続けてるこの髪とか。
 たとえば、この病人みたいに白い肌とか。
 たとえば、あなたが抱きしめてくれたこの躰とか。
 たとえば、あなたと繋がっていられるこの小さな手とか。
 たとえば、あなたを呼ぶことの出来るこの声とか。


 全部全部すき。


          すきなもの



「ねぇ衛、何か欲しいものある?」
 いつものように離れの縁側に腰掛けて、花摘は問いかけた。
「何を急に」
「もうすぐ衛誕生日でしょ? プレゼントだよ」
 にこにこと屈託のない笑みを花摘は浮かべる。対して衛は、さして面白くもなさそうな表情のままだ。
「何がいい?」
「…特にないな」
「去年もそう言ってた気がするんだけど」
「そうだったか?」
「もう、何でもいいっていうのが一番困るんだからね」
 そう言うと、先ほどまでの笑顔はどこへやら、花摘はぷいっとそっぽを向いてしまう。
(まるで百面相だな)
「……ちょっと、何笑ってんの」
「悪い悪い」
 謝りながらも笑いを堪えてる様子の衛に、花摘はますます眉根をよせる。
「まったく……ちゃんと考えないならプレゼントあげないよ!!」
 言いながら花摘は、両手を勢いよく床について衛の方へ身を乗り出した。
 その拍子に、花摘の髪に結わえ付けられた小さな銀の鈴がちりんと音を立てる。
「そう言われてもな……。というか、たしかお前もなんでもいいと言わなかったか?」
「わ、私はいいのよ」
「何故?」
「なんででも!!」
 問われた花摘は力いっぱいそう叫ぶと、慌てて衛から顔を背けた。
 死角となった衛からは見えないだろうが、錦糸から僅かに覗く肌は見る間に朱く染まっていき、小さな両の手は袖の中できつく握り締められていた。そんな花摘を衛は不思議そうに見つめていたが、ふと、


「……欲しいものか。そうだな、お前が心を込めて選んでくれたものがいい」


 と呟いたのだった。



 だってあなたがくれたものだから。
 だって「あなた」が「私」にくれたものだから。
 だってあなたが好きだと言ってくれた私だから。


 全部全部、好きになる。










   +閉じる+