「煙草」


付き合い始めた頃、あいつはいつも煙草を吸っていた。
だから、あいつの服や部屋はいつも煙草の匂いがして、あたしはそれがたまらなく嫌だった。
 
 
「……やめなよ」
「何を?」
「煙草」
「何で?」
「嫌いだから」
「………」
「それに―――」
 言いかけた唇を強引に塞がれる。
 煙草味のキス。いつもの行為。
それは、愛情表現というよりも侵食に近くて。
「にがい」 
 恨みがましく言ってやっても、悠(はるか) は「そうかな」と微笑うだけ。
「季佳(ときか)もそのうち好きになるよ 」 
そして悠はあたしにもう一度口付ける。
「…ずるい」
その言葉に、キスに、あたしは、流されて、呑まれて。
悠は結局煙草をやめてくれない。


 それが、高1の冬。

       



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