「近距離恋愛」


 私の好きな人には彼女がいました。
 彼女はとてもキレイで頭もよくて、私なんか足元にも及ばないような素敵な人でした。



 私は彼女が好きでした。
 ただキレイなだけではなく、強い信念を持った彼女は、同性の私の目から見ても魅力的だったのです。



 だから私は、彼女から彼を奪いたいなんて――そもそも出来るなんて思っていなかったわけですが――一度も思いませんでした。



 我ながら実に不毛な恋です。
 その上私は、彼のことが好きだと言いながら、お似合いな二人を見ているのが好きだったのです。



 状況が一変したのは、彼女が東京の大学に行くことを決めた時でした。
 後から人伝に聞いた話ですが、彼女は自分の夢のために、彼に何の相談もなくひとりで東京行きを決めたそうです。


 彼女は本当に強い。
 私は今でもそう思っています。




 しかし結果的に、彼女が東京に行ったことで彼女たちは別れ、私は彼を手に入れたのです。



 世の中は本当に皮肉なものです。









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