a forget-me-not



  月曜日には、君が好きだった音に溺れて、独りで泣きましょう。
  火曜日には、君が好きだといってくれたこの声で、君への涸れることのない愛を囁きましょう。
  水曜日には、君が好きだった紅茶を探しに、遠い街へと出かけましょう。
  木曜日には、君が好きだといってくれたこの長い長い髪を、切り落としてしまいましょう。
  金曜日には、君が好きだったこの花を持って、ふたりで行くはずだった海に行きましょう。
  土曜日には、君が好きだといってくれたこの白いワンピースを着て、君との想い出を辿りましょう。
 

 そして日曜日になったら、君が愛したもの全てを連れて、君にもう一度逢いに行きましょう。

    


  *** *** ***




 少女は、白い扉の前に立っていた。
 扉には面会謝絶の文字。
 1週間前にかけられたそれは、今日になっても取り外されることは無くて。
「……愁、来たよ」
 面会謝絶の病室を訪れる少女を咎める者はもういなかった。


 
 
 約束しましょう。
 毎日貴方に会いに行くと。
    



「……愁は遠いところへ行くのね。私をおいて」
 静かな部屋に、少女の声と、無機質な機械音だけが降り積もる。
 扉一枚隔てた外の喧騒も、ここには届かない。
「愁がいない世界なんて退屈で仕方ないの。
……ねぇ愁、そっちは楽しい?」
 少女の問いに少年は答えない。
 それでも、少女は問わずにはいられなかった。
 










貴方が堕ちた世界はどんなところですか?
どうすれば私はまた貴方に逢うことが出来ますか?
貴方は今でも私を想ってくれていますか?
ふたりで交わした約束を憶えていますか?



 





私の犯した罪を、赦してくれますか―――?


















 残されたのは、噎せかえるような死の芳香。


 
       





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