「告げる」


 
 伝えたいとは思わなかった。ただ傍にいて、同じ時間を過ごせたらそれでよかった。
 でも時々苦しくなった。貴方が他のダレカと話しているのを見るのが辛かった。



 コッチヲ向イテ。私ヲ見テ。傍ニイテ。



 貴方を見つめる瞳の内側で、私はそんなことばかり思っていた。



 貴方は知らない。私が今も貴方を好きなことを。
 貴方は知らない。バスで、廊下で、貴方を見かけるたびに、私が瞳(め)を伏せてることを。


 でも、それでいいと思う。




 倖せにはなれないけど、不倖にもならないから。




 結局、ヒトの想いなんて一方通行。
 通ったと思った束の間、想いは交差する。


 なら、最初から見ているだけでいい。
 遠くから、貴方を見ているだけでいい。
 逃げだと思われても構わない。
 臆病者と罵られても厭わない。



 傷つくのは嫌だから。私は倖せを厭わない。
 そして私は醜いから、貴方の倖せも願えない。




 それでも私は恋をしている。
 
       





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