手の中の水槽
お姫サマは三人の召使と一緒に暮らしています。
召使は、いつも影のようにお姫サマに寄り添っていましたが、影のように何も喋りません。
お姫サマの話し相手は、小さな黒い猫と籠の中の小鳥だけでした。
お姫サマはいつも、お部屋で本を読んでいました。
お姫サマのお部屋には、大きな大きな本棚があって、そこにはたくさんの本が納められています。
お姫サマは多くの事を本の中から学びました。
あれが空、あれが太陽。
これが花、これが鳥。
窓から外を指差してお姫サマは言います。
私は何でも知っているわ。
愚かな外の人たちとは違うのよ。
お姫サマは本棚からお気に入りの本を取り出しました。
いつかね、私の"王子サマ"が私を迎えにくるのよ。
この本にそう書いてあるもの。間違いないわ。
お姫サマは、生まれてから一度も塔の外に出たことがありませんでした。だから、お姫サマにとっては塔の中が世界の全てで、お姫サマの世界には、三人の召使と一匹の猫と一羽の鳥しかいませんでした。
それは、とてもとても閉じた世界でした。
……そう。お姫サマの世界には、お姫サマを傷つけるものも、愛してくれるものも、誰一人いなかったのです。
籠の中のお姫サマは、籠の中でしか生きていけない。
お姫サマは一生それに気づけない。
back
|